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お知随時対談/ずいだん

 松村五郎(元陸上自衛隊東北方面総監) 前編    2017.9.21
松村五郎


 「陸上自衛隊の論客」と聞くと身構えてしまうが、松村さんは東大の理科系出身というバックボーンもあってか、右も左も関係なく、きちきちと筋だって話す技術者タイプの方である。物騒な国際情勢が定着し、一般人でも軍事に関するある程度の認識は持たざえるをえなくなった今日、貴重な存在と言える。

 これまでは現役自衛官という制約から公に発言することを控えてきた松村さんだったが、昨年、東北方面総監の職を最後に退官。自由に発言できるようになって、この夏には初の著書『自衛隊 最前線の現場に学ぶ最強のリーダーシップ』(WAVE出版刊)を世に出した。

 対談では、この本の主題である自衛隊のリーダーシップ教育から、学校や民間企業を含めた普遍的な人間教育のあり方、さらには今後の国際情勢へと話が広がった。



 松村さんとは20数年来の飲み仲間で、以前は陸上自衛隊の幹部候補生学校の校長をされていたこともあるので、自衛隊の教育についてお聞きする機会もありました。

 一般のイメージからすると、旧陸軍に連想されるいわゆる「軍隊式」で、問答無用のスパルタ教育なのかなと思ってお伺いすると、「いや、ぜんぜんそんなことはありませんよ」とお答えいただいたことを覚えています。

 ただ、飲みの席なので詳しくも聞けず、あいまいなままだったのですが、今回、出版された『自衛隊 最前線の現場に学ぶ最強のリーダーシップ』を拝見して、ようやく詳細がつかめました。


松村 陸上自衛隊でもレンジャーなど肉体を鍛えなければならない分野に関してはスパルタの部分もあります。これはしょうがない。ただ、幹部育成の分野ではそんなことは全くありません。

 現実には、高卒あるいは大卒で入隊してきて、25歳ぐらいでは部下を持つリーダーにならなくてはならないのですが、こう言っては語弊があるかもしれませんが、彼らは民間企業の社員と少しも変わらない普通の若者たちです。日本社会全体の風潮もそうでしょうが、自衛隊も同じで、組織をスパルタで引っ張っていけるような状況ではありません。


 
「知力」偏重の米軍、「人間力」重視の自衛隊


 本を拝見すると、自衛隊では指揮官のリーダーシップを「統率」と言って、「統率」は「指揮」と「統御」のふたつの要素から成り立つと教えているそうですね。専門用語でちょっとむずかしいですが、「指揮」は「知力」、「統御」とは「人間力」と置き換えられるようです。そこで、素朴な疑問なのですが、これは米軍も同じ考え方なのでしょうか。

松村 米軍が考えるリーダーシップは、完全に部下を引っ張っていくノウハウであって、イコール「指揮」つまり「知力」の部分のことを指します。米軍ではこの部分のノウハウは非常に細かく落とし込まれて定義づけられており、もう完全にマニュアルの域です。

 これに対して、日本は「統御」つまり「人間力」の部分を重視するのが特徴でしょうね。ただ、人間力が大切なのは皆さんも理解できるでしょうが、これを具体的にどう教えるのかを考えると、非常に難しい。日露戦争の時の陸軍大将だった大山巌のようなモデルはいても、じゃあ全員、大山巌になれと言ったところで、どだい無理な話です。

 ですので、陸上自衛隊でも「指揮」つまり「知力」の部分については、かなり詳細な教育マニュアルがあるのですが、「統御」つまり「人間力」の部分については、正直、試行錯誤を続けていますし、現状、指揮官個人の個性に任されている部分が大きいです。


 中編−「人間力」養成は試行錯誤の連続、へ続く

松村五郎略歴 松村五郎
 1959年埼玉県生まれ。東京大学工学部原子力工学科卒業。戦略論修士(United States Army War College・アメリカ陸軍戦略大学)。
 1981年陸上自衛隊入隊。第73戦車連隊中隊長(恵庭)、第21普通科連隊長(秋田)、第3次イラク復興支援群長、幹部候補生学校長(久留米)、陸上幕僚監部人事部長などを歴任。陸将に昇任、第10師団長(名古屋)、統合幕僚副長、東北方面総監(仙台)を経て、2016年退官。


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