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お知随時対談/ずいだん

 黒岩亜純(TBSディレクター/プロデューサー) 前編    2014.7.4 於:TBS
ずい談ヘッド、黒岩氏


 TBSで長年、ディレクターとしてニュースやドキュメンタリーの制作に携わってきた黒岩氏は、本サイトに掲載している「プロに学ぶ動画編集入門」をともにまとめた共著者である。話はテキストをまとめるきっかけに始まり、映像と文章の表現特性の違いやメディアの将来へと広がった。


 黒岩さんと最初にお会いしてから、もうかれこれ10年近くになりますね。NHKのディレクターさんから、手弁当で学生に映像制作を教えている人がいると聞いて、お訪ねしたのがはじまりでした。当時は『筑紫哲也NEWS23』のデスクで、非常にお忙しそうでした(今もそんなに変わりませんが…)。そんな中で、なぜ学生に映像制作を教えようと思ったんですか。

黒岩 90年代の半ばだったと思うのですが、ひとりの学生が就活のOB訪問で訪ねてきて、「どうしたらTBSへ入れますか」って聞いてきたんです。ちょうどその頃は、一般向けの小型ビデオカメラが普及し始めた時期でした。私たちの現場でも、ディレクターが手軽に撮影できることから、一部で利用し始めていたんです。テレビ局のプロのカメラマンが持っているようなごっついビデオカメラで、かつ3-4人のクルーを組まなくても、ディレクターが一人で機動的に映像が撮れるようになった。自分自身、これまでにない可能性を感じていました。

 それで、その学生につい「これからはTBSに入らなくても、誰でもドキュメンタリーは作れるよ」と勢いよく言ってしまったんです。そしたら、「本当ですか、じゃあ黒岩さん、教えてください!」って逆に言われて。自分で言ってしまった手前、ひっこみがつかなくなって、母校の慶応大学の前でその学生とふたり、ビラを配って興味のある人を募集し、30人くらいのサークルとして活動が始まりました。その後、口コミで様々な大学からも学生さんが参加してきて、最盛期には100人以上のインカレサークルになりました。合宿にも行きましたよ。

 その時はどのようにして教えていたんですか。
黒岩氏
黒岩 テキストなんて当然ありませんから、私が作ったドキュメンタリー映像を見せつつ、この時はどう取材対象にアプローチして、どのようにして撮影して、といった感じで説明した後で、みんなでディスカッションするような感じでした。それから、ある程度、回数を重ねて、学生たちの理解も深まってきたところで、「自分たちの日常の中の風景を撮って、ドキュメンタリーにしてごらん」と課題を出して、彼らが作ってきた映像を皆で鑑賞し、批評し合うようにしました。

 そうしたら、予期していなかったような斬新な表現をする人間も結構いて、自分の方が驚かされるようなこともありました。ある女子学生なんかは、夜、玄関の所にカメラを据えておいて、酔って帰ってくるお父さんを撮ってきました。自然体の素のお父さんが撮れていて、これなんかプロには絶対撮れないな、と感心したことを覚えています。

 この女子学生が、卒業後、ドキュメンタリー映画の『エンディングノート』を監督して話題となった砂田麻美さんです。この映画は、その後、がんの告知を受けたお父さんの様子を撮り続けたもので、独自の視点が評価されましたよね。最近では、スタジオジブリに密着して撮影した『夢と狂気の王国』が公開されましたが、やはり彼女なりの表現でしたよね。

 黒岩さんの苦労も無駄ではなかったということですね。

 私の方はと言えば、その頃、東京の西側でNPOをやっていました。学生も常時30人くらいは参加していて、特に映像に興味を持っている人間が多かったんです。ちょうどそのあたりにはアニメスタジオが集積しているのこともあって、NPOとしてもアニメスタジオさんとご縁があったからです。実際、スタジオに就職した人間もかなりいます。

 その活動の一環として、自分たちの活動や身近なニュースを映像で記録してネット上で紹介していこうと思ったんです。私自身、雑誌社にいた頃は、活字の世界ですが、企画して、取材して、編集する、という仕事をしていましたから、たとえ、それが映像での表現に変わったとしても、そこそこはできるだろう、と考えていました。

宮 ただ、実際にやってみると、「これは根本的に違う」と愕然としてしまったんです。そりゃ、最後の映像表現の部分は素人なので、稚拙になっても仕方はないとは思っていましたが、そこは経験を積んでいけば徐々にうまくなるものだと思っていました。企画や取材の部分は仕事としてやってきたのだから、そこができていればなんとかなるだろうと。

 ところが、どうにも説明くさいんですね。文章をそのまま映像に置き換えているだけ。今にして思えば、その特性を活かした作り方が全くできていない。それで、じゃあテレビ局ではどうやってニュースやドキュメンタリーを作っているのだろう、何か文章とは違いがあるはずだと考えるようになって、黒岩さんをお訪ねした次第です。それで、この際、一緒にテキストを作りましょう、となったわけですね。

 こうしたいきさつから生まれたテキストですので、内容的には制作工程に着目して、随所に文章との比較がなされているのが特徴でしょうね。

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【関連サイト】
 映画『エンディングノート』公式サイト “黒岩ゼミ”の卒業生、砂田麻美さん監督デビュー作品
 映画『夢と狂気の王国』公式サイト 砂田麻美さんの監督第2作目、スタジオジブリに密着