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小林一三の『ビジネスに効く言葉』 (まいつき、一三!)

小林一三のビジネスに効く言葉


 自分は運命論者であり、努力第一主義者である



 自分は決して自分の力だけで今日を築いたのではない。他人の力で今日の自分にまで成長したので、何もかもが自分は「運」だと思っている−。

 一三さんは『私の行き方』の中で、自らの半生を振り返り、こう回想しました。そして、次に出てきたのが、

 自分は運命論者であり、努力第一主義者である

という言葉でした。

 一見、相反するようなふたつの主義が並立していることに、んっ?と思ってしまいますが、一三さんはそこをこう解説しています。

 「運命論と努力第一主義というと、いかにも正反対のイズムのように思われるかもしれないが、運命論と言っても運は寝て待て、ボタ餅ゃ棚から式の運命論では決してない」。

 実は一三さん、自ら望んで鉄道業界に身を投じたわけではありません。

 本当は証券会社の立ち上げに伴って、マネージャーに就任する予定だったのですが、不況のあおりで、計画が頓挫。三井銀行を退職してまで大阪に来た一三さんは家族を抱えて失業してしまいます。

 周囲がそれを心配して、鉄道会社の仕事(と言っても、先の見えないペーパーカンパニーの状況です)を紹介。かろうじてそのマネージャーの職にありついたというのが、鉄道業界に足を踏み入れたきっかけです。

 「何も理想があったわけではない。ただ飯を食うためにやったので、その会社をよりよくするのには、どうしたらいいかということに、最善の努力を尽くしただけの話です」

と一三さん自身、回想していますが、こうした過去があったからこその「運命論」なのだと思います。

 一方、努力第一主義という点に関しては、一三さんはよく「与えられた仕事にベストを尽くす」と口にしていました。『私の行き方』の中では、信長の草履取りから出世した秀吉を例に取り、こう述べています。

 「秀吉が草履を温めていたというのは決して信長に取り入って天下を取ろうなどという考えから技巧をこらしてやったということではあるまい。ただ、草履取りという自分の仕事にベストを尽くしたのだ」。

 そこからさらにこう解説しています。

 「どんな小さな仕事でも、決してそれだけが孤立しているものじゃない。必ずそれ以上の大きな仕事としっかり結びついているものだ。つまらぬと思われる仕事でも完全にやり遂げようとベストを尽くすと、必ず現在の仕事の中に次の仕事の芽が培われてくるものだ」。

 こうした考え方に基づく、「努力第一主義」であると思います。

 と、みてきて、私がふと思ったのは、「これって、置かれた場所で咲きなさいということか?」ということです。

 『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子著、幻冬舎刊)がベストセラーを続けています。タイトルは、筆者が若い頃、宣教師から教えてもらった英詩から取られています。正確には、

「神が植えたところで咲きなさい。咲くということは、仕方がないと諦めることではなく、笑顔で生き、周囲の人々も幸せにすること」

という意味だそうです。

 この考え方をビジネスの世界に当てはめると、一三さんが言っている事に通じると思います。より一三さんの考えに近づけるなら、「置かれた場所で咲きなさい」ならぬ、「置かれた場所で一生懸命咲きなさい」ということでしょう。

 最後に一三さんはこう締めくくっています。

 私はおよそこの世で自分くらい幸福な男はないと思っている。だから、与えられた仕事を一生懸命やれば、それでいいのではないか − これが自分の処世上唯一の信条であり、また自分の人生観でもある

 注)引用した本文の一部は、著者が現代語訳しています。

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小林一三

小林一三(こばやし・いちぞう)

明治6(1873)年1月3日、山梨県韮崎市生まれ。明治25(1892)年、慶應義塾大学卒業。翌年、都新聞に入社予定も直前に破談、三井銀行入行、大阪支店へ。明治40(1907)年、同行を退職、箕面有馬電気軌道(後の阪急電鉄)の経営に参画。昭和2(1927)年、阪急電鉄社長。昭和3(1928)年、東京電力の前身である東京電燈副社長就任。昭和7(1932)年、東京宝塚劇場(後の東宝)創立。昭和15(1940)年、第2次近衛内閣で商工大臣就任。昭和32(1957)年、死去。享年84歳。大仙院殿真覚逸翁大居士。元プロテニス選手でタレントの松岡修造はひ孫にあたる


【関連書籍】



 拙著。一三さんの波瀾万丈な生涯を描きました




  小林一三のビジネスに効く言葉 目次
 
  はじめに−時代を超越する仕事の極意
  自分の持つ長所を確信すること
  若い人にはなおさら夢がなければならない
  着想とは現在の仕事にベストを尽くす中から生まれる
  自分は運命論者であり、努力第一主義者である
  何よりも人間は独立自尊で生き抜かねばならぬ
  中小企業は金のある人には決してできない
  世の中とは本当におかしなものである
  青年の希望は達せられないのが原則と思わねばならぬ
  有用の材たらんとする青年は平凡でなければならぬ
  自分の計算から出発せざること
  事業の基礎を大衆に置く