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小林一三の『ビジネスに効く言葉』 (まいつき、一三!)

小林一三のビジネスに効く言葉


 若い人にはなおさら夢がなければならない



 これは、一三さんの最晩年、昭和31年暮れに行われた東宝の年忘れパーティーでのスピーチで、池部良や森繁久彌ら当時の若い俳優さんたちを前に語した言葉です。一三さんは東宝で盤石の制作・配給体制を築いて前年に社長を退いた後、相談役を務めていました。

 当時は日本映画黄金期のまっただ中。特にこの年の東宝は、『宮本武蔵』が米アカデミー賞外国語映画賞を受賞したほか、特撮映画初のカラー作品『空の大怪獣・ラドン』、社長シリーズの先駆けとなった『へそくり社長』(主演:森繁久彌)はじめ空前の96作品を公開、乗りに乗っていました。

 自然、パーティーも華やかで、活気があったものと思われます。

 そんな中での一三さんのスピーチは、とても感動的なものだったようです。NHKで2015年に放送された『経世済民の男・小林一三』(主演:阿部サダヲ)でも、ラストシーンにこの様子が描かれていたので、ご記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。

 ただ、「ようです」と一応断ったのは、スピーチ自体の正式な記録が東宝に残っていないためです。当時の東宝取締役でその場に居合わせた森岩雄氏は、後にこのように述べています。

「私達は仕事の上で毎日のように失敗をやっている。この夜の一三翁の演説をどうしてテープにとっておかなかったか。これは失敗というより私共の一生の不覚とも申すべきであろう」(『小林一三翁の追想』より)。

 それでも、ということで、氏は、記憶を頼りに、この時のスピーチ内容を書き残しています。それによると−。

 「諸君、日本は年々その実力をつけてきたが、これからはさらに一段と立派になっていく。数年のうちに日本は諸君もびっくりするくらい、すばらしい国になると私は確信している」。(中略)

「芸能の仕事に携わる者にとっても、したがってすばらしい世界が開かれてくる。映画もテレビもこれをいよいよ盛んなものにするために私は様々な夢を持っている。84歳の老人である私でさえもこのような夢を持っている」。

 これに続いて出てきたのが、次の言葉です。

 若い人にはなおさら夢がなければならない

 当の一三さんは、この日のことを日記にこう書き記しています。

 10時過ぎ、東宝パーティーに行く、盛況也。池部と森繁両君に強要されて一場の私の夢を語る。11時半帰宅、疲れたり、疲れたり。(注:現代語訳)

 このスピーチからわずか1カ月後の昭和32年1月25日、一三さんは亡くなったので、本当にこのパーティーを最後に歴史の舞台から消えていったことになります。その最後の舞台で、こうしたスピーチを遺していくあたり、まさに劇的な生涯だったといえるでしょう。

 それにしても。80を過ぎて、(後から考えればですが)死期も迫っている人間が、あれもやりたい、これもやりたいと夢を持ち続けていたとは、ものすごいバイタリティです。日記にもあるように、肉体的には「疲れたり、疲れたり」だったのでしょうが、夢があったからこそ老体にムチを打つようなバイタリティを持ち続けることができたのかもしれません。

 逆に、たとえ若くとも、夢がなければ、逆境でがんばることはできないということなのかもしれません。

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小林一三

小林一三(こばやし・いちぞう)

明治6(1873)年1月3日、山梨県韮崎市生まれ。明治25(1892)年、慶應義塾大学卒業。翌年、都新聞に入社予定も直前に破談、三井銀行入行、大阪支店へ。明治40(1907)年、同行を退職、箕面有馬電気軌道(後の阪急電鉄)の経営に参画。昭和2(1927)年、阪急電鉄社長。昭和3(1928)年、東京電力の前身である東京電燈副社長就任。昭和7(1932)年、東京宝塚劇場(後の東宝)創立。昭和15(1940)年、第2次近衛内閣で商工大臣就任。昭和32(1957)年、死去。享年84歳。大仙院殿真覚逸翁大居士。元プロテニス選手でタレントの松岡修造はひ孫にあたる


【関連書籍】



 拙著。一三さんの波瀾万丈な生涯を描きました




  小林一三のビジネスに効く言葉 目次
 
  はじめに−時代を超越する仕事の極意
  自分の持つ長所を確信すること
  若い人にはなおさら夢がなければならない
  着想とは現在の仕事にベストを尽くす中から生まれる
  自分は運命論者であり、努力第一主義者である
  何よりも人間は独立自尊で生き抜かねばならぬ
  中小企業は金のある人には決してできない
  世の中とは本当におかしなものである
  青年の希望は達せられないのが原則と思わねばならぬ
  有用の材たらんとする青年は平凡でなければならぬ
  自分の計算から出発せざること
  事業の基礎を大衆に置く